WEBサイトの構築を請け負う。しかし費用は「成果報酬型」とする。
それは筆者にとって実験的な試みだった。
ホームページの制作に必要な制作費を求めず、公開したホームページが生み出した利益の一部をメンテナンス費用として継続的に請求するというものだ。
つまり成果が発生した場合だけ報酬を受け取るという契約である。
WEBサイトの制作は一度売って終わりにしてしまう「売り切り型」になることが多い。
このタイプだとどうしてもイニシャルにかかるコストが高くなるし、制作側は「売りつけた後は知らん顔」になりがちだ。
ビジネスにおけるWEBサイトの重要性が認知されて久しいが、その導入に二の足を踏む経営者も多いという背景からちょっと色々試してみた結果をまとめる。
3つのタイプのビジネスパートナーを選ぶ
まず筆者のこの思い付きのような企画にお付き合い頂く酔狂なビジネスパートナーを探さなければならない。
特に当てやコネがあったわけでは無いが、そのご縁には意外にも簡単に恵まれた。しかも3案件だ。
更に都合のよいことに、それぞれ異なる業種だった。
今回のプロジェクトの対象となったWEBサイトの概要は下記だ。
- オーダー製品販売サイト
- 商品販売サイトなのだがその製品はオーダーメイドの商品という意味で単純なECサイトとは若干異なる。
- 工業製品プロモーションサイト
- ある企業が持つ製品(特許取得済み)のプロモーションサイト。
- 人材募集サイト
- 人材が集まらずに苦慮している企業のコーポレートサイトであるが主に期待される役割は人材獲得である。
それぞれのタイプ別に経験した苦労とその顛末は下記の通りだ。
ECサイト(オーダーメイド製品)
オーダーメイド製品は利用者の嗜好に合わせて製品をカスタマイズしなければならない。
例えばアパレル系のECサイトであればあらかじめ取り扱いのある商品を並べておけばいい。
しかしオーダーメイド製品の場合、ユーザーの細かい要望を入力する機能が必要だ。
この部分はシステムとして結構な作り込みが必要だった。
更に問題だったのは製品の写真が無いということだった。
オーダー製品なので作り置き(在庫)がなくWEBサイト上に製品一覧ページを用意できないのだ。
ECサイトのくせに商品写真が無いなんて聞いたことがなかった。
サイトオーナーにはせめて過去の制作事例くらいは画像で残して置いて欲しかったところだ。
このサイトは開設後しばらく苦戦しアクセスがあまり伸びなかったのだがオープン3か月を過ぎるころからポツポツと問い合わせや注文が入るようになる。
しかしその後とんでもない事態に発展してしまう。
何と受注した商品が納品されないという事が発生した。
こちらの会社では工場機能はアウトソースしていて受注した商品を工場に委託生産していたのだが、どうも工場をコントロール出来ていなかったらしくユーザーに提示した納期を守ることが出来なかった。
また商品の受注側であるサイトオーナーと工場との意思疎通に難があり、利用者からの問い合わせに対する回答にも時間がかかった。
これはもうWEBサイト以前に組織としての体をなしていないという事例である。
結構な工数をかけて作ったWEBサイトであったが足元から崩れてしまった。
工業製品プロモーションサイト
こちらのWEBサイトは商品カタログもしっかり用意されており、WEBサイトには販売機能を持たせずにもっぱらプロモーションに徹すればいいということで難易度は低かった。
筆者はWEBサイト全体の構成やらコーディングやらレスポンシブ対応やらといった作業に集中すれば良く、制作面での苦労は少なかった。
公開直後は当然少ないアクセス数だったが引き合いは多かった。
しかも海外からの引き合いがあるなど順調な滑り出しを見せ大いに期待できるものだった。
そんなある日、サイトオーナーから思いもかけないリクエストを受ける。
それは「WEBサイトの露出を控えてくれ」というものだった。
これちょっと耳を疑った。
世の中の事業者は自分のWEBサイトを必死に宣伝しSEOに精を出し集客に汗を流しているのに「アクセス数を減らしてくれ」という要望が来たのだ。
この奇妙なリクエストの背景には製品の共同研究者との関係があったらしいが実際にはよくわからない。
自社の製品を広告するためにWEBサイトを起ち上げたにもかかわらず、知名度が上がりすぎるのは困るというケースもあるという稀有な経験だった。
人材募集サイト
人材獲得を目的にWEBサイトを構築するケースは多いと思うが難易度は高い。
カテゴリーとしてはコーポレートサイトになるのだが、人材獲得を主な目的にする場合、組織内部の実情を伝える必要がある。
その組織に魅力を感じて貰わないと結果として条件面で差別化を図ることになるが、採用条件に魅せられる人材は離れるのも早い。
ではどうやって「組織」をアピールするのか?
それはその組織を一番良く知っている社長自身が自分の言葉でコンテンツを充実させなければならない。
つまり筆不精ではダメなのだ。
一度に大量の文章を掲載するのではなく、長期にわたり継続的に社長自身が自分の思いや自社の長所を綴り、時には欠点についても包み隠さず吐露する必要がある。
この地味な作業は決してアウトソースできないのだ。
こちらのWEBサイトの場合、初期リリースのライティングは筆者が行った。
それは社長をインタビューし社長の思いを文章としてまとめたものだ。
使用するキーワードも留意しながら、HTMLのコードに落とし込む際にも章節項など文章の意味付けに配慮した。
筆者がお手伝いできるのはここまでだ。
元ネタはあくまでその組織を日々運営している当事者にしか書けない。
そこを放棄されてしまうとちょっと厳しい。
人材確保は求人誌などのメディアに出稿するのが常套手段だが、これはとてもコストがかかるのでなるべく自社運営のメディアで集客したいところだ。
しかしライティングという思わぬ壁にホームページ運営が難航することも多いのだ。
こちらのオーナーはとても筆不精な方で結局初回リリース以降、ほとんど更新されないWEBサイトは人材確保にはさほど役に立っていない。
WEBサイトの制作で最難関はライティングだ
今回3つのタイプのWEBサイトオーナーと関わり、異なる業種のWEBサイト制作をお手伝いする機会に恵まれた。
それぞれのタイプ毎に苦労はあるが、共通して苦労することが一つある。
それは「ライティング」である。
ホームページを制作するには何はなくとも文章が無いことには始まらない。
企業サイトの場合は特に重要で、文章の少なさを著作権フリーの写真でごまかしても魂が宿ることはないのだ。
様々なテクニックを用いてアクセスを集めてみても、魂の宿らないWEBサイトに人は魅かれない。
運営者の語る熱い思いを検索エンジンがどれほど解釈できるか甚だ疑問ではあるが、「誰かに伝える」という根幹を忘れないで欲しい。
今回ご縁のあった3つのサイトではいずれのケースでも「ライティング」をお手伝いすることになった。
というか殆ど筆者が執筆したサイトもある。
WEBサイトの開設を検討する場合、あるいはそのお手伝いをする際にはまず「文章」の精度を確認すべきだ。
「成果報酬型」WEBサイト制作を試したSEの結論
今回の貴重な経験から「システムエンジニアは無料で仕事を請け負ってはいけない」という教訓を得た。
どんなに少額でも費用は請求しないと発注者・受注者共に緊張感がなくなる。
また、無料だとなぜかクライアント側が仕事を依頼することを躊躇する。
どうやら申し訳ないという心理が働くらしい。
海千山千の社長さんでも無報酬で作業を発注するのは気が引けるということを知ったのは驚きだった。
こちらとしてはビジネススキルに秀でた現役ビジネスマンと向かい合って試行錯誤しながら商売を育てていく過程を経験できるのが楽しかったので、ここは遠慮せずどんどん相談して欲しかった。
反省すべき点は、こちらももっと相手にプッシュすべきだったのだろうと思う。
今回は既にオフラインでのビジネスを展開しているクライアントに対してWEBサイトを提案したが、それでも様々な予想できない困難に直面した。
この経験を次の機会に是非活かし、エキサイティングなご縁に巡り合いたい。